こんにちは。「園芸の教科書」運営者のめぐみです。
家庭菜園で人気のほうれん草ですが、いざ種をまいてみると「全然芽が出ない」「芽が出ても揃わない」といった失敗をしてしまった経験はありませんか。実はほうれん草は、他の葉物野菜に比べて少しだけデリケートな性質を持っています。特に土の酸度や種をまく深さ、そして気温の管理がうまくいかないと、発芽スイッチが入ってくれないのです。でも、安心してください。植物の性質を理解して、正しい手順を踏めば、誰でもふさふさの緑の葉を収穫することができます。今回は、私が実際に試して効果を感じた、発芽率をぐっと高めるためのポイントを余すことなくお伝えします。
この記事のポイント
- 時期に合わせた品種選びと土作りの準備
- 発芽率を高めるための種子の処理方法
- スジまきの深さと鎮圧の重要性について
- 夏まきや乾燥を防ぐための具体的な管理術
失敗を防ぐほうれん草の種まきのコツと準備

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ほうれん草の栽培において、最も多くの人がつまずくのが種まきから発芽の段階です。
「せっかくまいたのに芽が出ない」「芽が出てもすぐに枯れてしまう」といった失敗の多くは、実は種をまく前の準備段階に原因が潜んでいます。ほうれん草は他の葉物野菜とは異なり、酸性土壌に極めて弱く、種子の寿命も短いというデリケートな特性を持っています。
また、季節に合わない品種を選んでしまうと、大きく育つ前に花が咲いてしまう「トウ立ち」のリスクも高まります。
前半では、いきなり種をまくのではなく、まずは成功確率を劇的に高めるための準備のコツに焦点を当てます。土壌の酸度調整から、意外と知られていない種子の構造の違い、そして時期に合わせた最適な品種選びまで、農学的な知見をわかりやすく解説します。
これらの事前知識を押さえておくことが、立派なほうれん草を収穫するための最短ルートとなります。
時期ごとの品種選びとトウ立ちの回避
ホームセンターの種売り場に行くと、何種類ものほうれん草の種が並んでいて迷ってしまいますよね。
実は、ほうれん草栽培で失敗しないための最大の分岐点は、この種選びにあります。パッケージの裏面を見て、「いつまく種なのか」を必ず確認してください。これを間違えると、どんなに上手に土を作っても失敗してしまうんです。
ほうれん草は、日照時間が長くなると「そろそろ花を咲かせて種を残そう」と勘違いして、葉を大きくする前に茎を伸ばしてしまう性質があります。これをトウ立ち(抽苔:ちゅうたい)と呼びます。トウが立ってしまうと、栄養が花に取られて葉が硬くなり、味も落ちて食べられなくなってしまいます。
特に、これから日が長くなっていく春まきや、暑さと長日のダブルパンチとなる夏まきでは、品種選びが命綱です。季節ごとの選び方のポイントをまとめましたので、種を買う前の参考にしてください。
- 春まき(3月〜5月):
日がだんだん長くなる時期です。トウ立ちを防ぐために、必ず晩抽性(ばんちゅうせい)と書かれた、トウ立ちが遅い品種を選びましょう。葉が丸くて肉厚な「西洋種(ビロフレイ、ノーベルなど)」や、それらを改良した交配種が向いています。 - 夏まき(6月〜8月):
栽培難易度が最も高い時期です。長日に加えて暑さも大敵となるため、晩抽性に加えて耐暑性があることが絶対条件です。「ジャスティス」や「タフスカイ」など、暑さに特化した強健な品種を選ぶのが成功への近道です。 - 秋まき(9月〜10月):
日が短くなっていくのでトウ立ちの心配がほとんどなく、初心者の方に最もおすすめの時期です。この時期は、寒さに当たると甘みが爆発的に増す東洋種(次郎丸、豊葉など)に挑戦できます。東洋種は根元が赤く、昔ながらの濃厚なほうれん草の味が楽しめますよ。
「いちいち季節で選ぶのは面倒…」という初心者の方は、パッケージに「春夏秋兼用」や「オールシーズン」と書かれた品種(オーライ、ミストラル、アクティブなど)を選ぶのが一番の安全策です。
これらは日本の気候に合わせて改良された優等生なので、トウ立ちしにくく、病気にも強いので安心して育てられますよ。
酸性土壌を改良する石灰の施用時期

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「ほうれん草は土で作る」という格言があるほど、この野菜は土壌環境に極めて敏感です。数ある野菜の中でもトップクラスに酸性土壌を嫌います。日本の土壌は雨が多く、カルシウム分(石灰)が流されやすいため、自然状態ではほとんどが酸性に傾いています。
もし、何もせずに酸性の強い土(pH5.5以下)に種をまいてしまうと、どうなると思いますか?
せっかく発芽しても、本葉が出る前に葉が黄色く変色し、根っこが茶色く縮れて枯れてしまうのです。これは、酸性化した土の中でアルミニウムなどが溶け出し、ほうれん草のデリケートな根を痛めつけるためです。
この失敗を防ぐためには、種まきの前に必ず石灰(アルカリ分)を混ぜて、土を中和(pH6.3〜7.0目標)しなければなりません。
しかし、ここで多くの人がやってしまう失敗が「石灰をまいてすぐに種をまくこと」です。実は、使う石灰の種類によってまいてから種まきまでの待機期間が全く異なるのです。
| 石灰の種類 | 特徴とメリット | 種まきまでの待機期間 |
|---|---|---|
| 苦土石灰 (くどせっかい) |
効果が穏やかで失敗が少ない。葉の緑色を作る成分「マグネシウム(苦土)」を含んでいるため、ほうれん草栽培に最も適している。 | なじむまで 1週間〜2週間 |
| 消石灰 (しょうせっかい) |
アルカリ分が強く、酸度を矯正する力が強い。殺菌効果もあるが、土の水分と反応して熱やガスを出す。 | 反応が収まるまで 2週間以上 |
| 有機石灰 (ゆうきせっかい) |
カキ殻や卵の殻が原料。効果は非常にゆっくりで穏やか。まきすぎても害が出にくい。 | 反応が起きないため 直前でもOK |
家庭菜園で最も一般的に使われる消石灰や苦土石灰は、土の中の水分と化学反応を起こします。特に消石灰は反応が激しく、まいた直後は土の中で熱を持ったり、アンモニアガスが発生したりすることがあります。この状態で種をまくと、いわゆる石灰焼けやガス障害を起こし、発芽不良や根腐れの原因となります。
私のおすすめは、ほうれん草が大好きなマグネシウムを補給できる苦土石灰を、種まき予定日の2週間前(遅くとも1週間前)にまいて、よく耕しておくことです。土とよくなじませることで、土壌酸度が安定し、ふかふかのベッドが出来上がります。
「今日が休みだから、今日すぐに種をまきたい!」という忙しい方は、少し割高にはなりますが有機石灰(カキ殻石灰など)を選んでください。これなら化学反応が起きないので、まいてすぐに種まきをしても安心ですよ。
発芽しない原因となる種の寿命と休眠
「土作りも完璧、水やりも毎日している。それなのに、なぜか芽が出ない…」
そんな時に一番に疑ってほしいのが、種そのものの寿命(鮮度)です。実は野菜の種には、数年間生きていられる長命種子(ナスやトマトなど)と、すぐに寿命が尽きてしまう短命種子があるのですが、残念ながらほうれん草は後者の「短命種子」の代表格なんです。
一般的に、常温で保存されたほうれん草の種の寿命は約2年と言われています。しかも、これは条件が良い場合の話で、湿気の多い場所や暑い部屋に放置していた種は、1年経たずに発芽能力(エネルギー)を失ってしまうことも珍しくありません。
もし、引き出しの奥から「3年前の種」が出てきたとしても、それを使うのはおすすめしません。どんなに環境を整えても、種の中の電池が切れていれば発芽スイッチは入らないからです。種袋の裏面にある「有効期限」と「発芽率」は必ずチェックする癖をつけましょう。
もし有効期限切れの古い種を「もったいないから使いたい」という場合は、以下の対策をとってください。
- いつもの2〜3倍の量をまく:発芽率が50%以下に落ちていると想定して、かなり厚めにまきます。
- 芽出し確認をしてからまく:濡らしたキッチンペーパーの上などで数日様子を見て、白い根が出るか確認してから土にまくと確実です。
また、種の保管方法も重要です。使い切れずに余った種は、口をしっかりとテープで止めて、乾燥剤と一緒に密閉容器(缶やタッパー)に入れ、冷蔵庫で保管することをおすすめします。低温・低湿で冬眠状態にしてあげれば、寿命を少し延ばすことができますよ。
メモ
「採れたて新鮮な種」が一番良いとは限りません。
ほうれん草の種には、収穫してから約3ヶ月間、わざと発芽しないように眠る一次休眠という性質があります。これは、冬が来る前に間違って発芽してしまわないための植物の知恵です。
市販の種はすでに休眠打破の処理がされているので心配いりませんが、自分で育てて採種した(自家採種)種をすぐにまく場合は、この休眠のせいで発芽しないことがあるので注意してくださいね。
(出典:タキイ種苗株式会社『ホウレンソウの休眠』)
ネーキッド種子や剣先種の特徴と処理

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ほうれん草の種まきで「水に浸けるべきか、浸けないべきか」と迷ったことはありませんか?実はこれ、正解は一つではありません。手元にある種の「タイプ」によって、やるべき処理が真逆になるからです。
ほうれん草の種は、大きく分けて「剣先種(東洋種)」「丸種(西洋種・交配種)」、そして特殊加工された「ネーキッド種子」の3種類があります。それぞれの特徴と、発芽率を最大化するための処理方法を理解しておきましょう。
| 種の種類 | 見た目の特徴 | 種まき前の「浸水」 |
|---|---|---|
| 剣先種・丸種 (通常の種子) |
硬い殻(果皮)に覆われている。 剣先種は鋭いトゲがある。 | 必要(推奨) 殻が硬く水を弾くため、一晩水に浸けて吸水させると発芽が揃う。 |
| ネーキッド種子 (加工種子) |
殻が取り除かれ、中身がむき出しになっている。 着色されていることが多い。 | 不要(厳禁) 水を含むのが早すぎるため、浸水すると腐敗や崩壊の原因になる。 |
通常の種(有殻種子)の場合
昔ながらの剣先種や一般的な丸種は、植物学的には種そのものではなく、硬い殻(果皮)に包まれた果実です。この殻には、発芽を抑制する物質が含まれており、水も吸いにくい構造になっています。
そのため、これらの種は「一晩(12〜24時間)水に浸ける」のが定石です。水に浸すことで硬い殻がふやけ、発芽抑制物質が洗い流されるため、発芽スイッチが入りやすくなります。特に夏まきでは、この浸水処理が必須テクニックとなります。
ネーキッド種子・プライマックス種子の場合
一方で、最近ホームセンターなどで増えているのが、硬い殻を人工的に取り除いたネーキッド種子や、発芽促進処理がされたプライマックス種子です。これらは裸の状態なので、土の中のわずかな水分でも敏感にキャッチして、驚くべき速さで発芽します。
しかし、ここで「種まきといえば水に浸けるもの」と思い込んで浸水させてしまうと、大惨事になります。
注意ポイント
ネーキッド種子は絶対に水に浸けないでください!
殻のないネーキッド種子を水に浸けると、スポンジのように急激に水を吸い込みます。その結果、酸欠状態になったり、種自体がドロドロに崩壊して腐ってしまったりします。
パッケージに「水につけないでください」「直まきしてください」と書かれていたら、その指示に絶対に従ってください。乾いたまま土にまくのが、成功のコツです。
プランターや畑での条間と株間の設計
種まきの方法には、パラパラと全面にばらまくばらまきと、列を作ってまくスジまき(条播:じょうは)がありますが、ほうれん草栽培においては断然スジまきをおすすめします。
ほうれん草は湿気に弱く、葉が込み合うと「べと病」などの病気が発生しやすくなります。スジまきにして風の通り道を作ってあげることで、病気を防ぎ、その後の間引きや追肥、土寄せ(株元に土を寄せる作業)が劇的にやりやすくなるんです。
プランターと畑、それぞれの最適な「条間(列と列の間隔)」の目安は以下の通りです。
| 栽培スタイル | 条間(列の間隔)の目安 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| プランター (標準60cm幅) |
2列 (間隔10cm〜15cm) |
欲張って3列にすると、葉が重なりすぎて蒸れてしまいます。2列ゆったり植えが成功の秘訣です。 |
| 畑・露地 (畝幅60cm〜) |
3〜4列 (間隔15cm〜20cm) |
除草作業などで鍬(クワ)や手が入るスペースを確保するため、少し広めにとるのがコツです。 |
なぜ「1cm間隔」でまくのか?(共育ちの効果)
ここで初心者が陥りやすい最大の罠があります。種のパッケージに株間5cm〜10cmと書いてあるのを見て、最初から10cm間隔でポツン、ポツンと種をまいていませんか?実はこれ、NGなんです。
ほうれん草には、隣同士の葉が触れ合うことで「負けないぞ!」と競争し合い、生育が促進される共育ち(きょうそだち)という性質があります。最初からスカスカにまいてしまうと、この競争が起きず、地面に張り付いたような平べったい株になってしまったり、生育が遅れたりします。
そのため、種まきの段階では「1cm〜2cm間隔」で少し密にまくのが正解です。密に育てて競わせ、成長に合わせて少しずつ間引いていくことで、最終的にガッシリとした大きなほうれん草に育ちます。間引いた小さな株は、柔らかいベビーリーフとしてサラダで美味しく食べられるので、一石二鳥ですよ。
注意ポイント
「直播き(じかまき)」が鉄則です!
ほうれん草の根は、太い根が地下深くまで一直線に伸びる「直根性(ちょっこんせい)」です。この根は傷つくと再生しにくい性質があるため、ポットで苗を作ってから植え替える「移植栽培」には向きません。必ず、育てる場所に直接種をまいてください。
手順で実践するほうれん草の種まきのコツ

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準備が整ったら、いよいよ実践的な種まきの工程に入ります。ほうれん草の発芽を成功させるための最大のコツは、「深さの均一化」と「鎮圧」、そして「発芽までの水分管理」の3点に集約されます。
ほうれん草の種は硬い殻に覆われているため吸水しにくく、また好気性でありながら乾燥を嫌うという矛盾した性質を持っています。そのため、単に土にばらまくだけでは発芽が揃わず、生育にムラが生じてしまいます。
ここでは、スジまきを行う際の正確な溝の深さや、種と土を密着させて毛細管現象を促す鎮圧のテクニックなど、明日から使える具体的な作業手順を詳述します。さらに、難易度が高い夏まきで必須となる「芽出し処理」の方法や、徒長を防ぐ間引きのタイミングなど、発芽率を極限まで高め、丈夫な苗を育てるための実践的なノウハウを余すことなくお伝えします。
一つ一つの作業の意味を理解して丁寧に行えば、初心者でもプロ並みの発芽を実現できるはずです。
発芽が揃う溝の深さと覆土の厚さ
ほうれん草の種まき作業において、プロとアマチュアで最も差が出るのがまき溝(みぞ)の精度です。
「種なんて土に埋まっていれば同じでしょ?」と思っていませんか?実は、まき溝の深さがデコボコだと、種の上にかかる土(覆土)の厚さがバラバラになります。すると、浅いところにある種はすぐに乾いて発芽できず、深いところにある種は酸素不足で窒息してしまう…という「発芽ムラ」の負の連鎖が起きてしまうのです。
発芽をビシッと揃えるための黄金比率は以下の通りです。
- 溝の深さ:1.5cm〜2cm
- 土を被せる厚さ(覆土):約1cm(種の直径の3倍程度)
溝を作るときは、指でなぞるよりも、支柱や木板の角(カド)を土に押し付けて、「底が平らな溝」を作るのがコツです。底が平らだと、すべての種が同じ深さに着地するので、発芽のタイミングが面白いほど揃いますよ。
土の厚さが適切でないと、以下のようなトラブルが起こります。
| 状態 | 起こりうる失敗 |
|---|---|
| 浅すぎる場合 (5mm以下) |
土の表面は風ですぐに乾くため、種が吸水不足になります。また、根が浮き上がってしまい、乾燥して枯れやすくなります。 |
| 深すぎる場合 (2cm以上) |
地上に出るまでに種の中に蓄えたエネルギーを使い果たしてしまい、発芽できません。また、雨が降ると酸素不足になりやすく、土の中で腐ってしまいます。 |
鎮圧を行って種と土を密着させる効果

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ここが今回の記事で一番お伝えしたい、プロと家庭菜園の差がつく隠れた重要ポイントです。種に土を被せた後、そのままにしていませんか?あるいは「土を固くしてはいけない」と思って、ふわふわの状態にしていませんか?
実は、ほうれん草の種まきでは、土を被せた後に上から手や板、クワの背などでギュッギュッと押さえる鎮圧(ちんあつ)という作業が不可欠なんです。
「せっかく耕したのに、踏み固めていいの?」と不安になるかもしれませんが、種まき直後の土に関しては「固める」のが正解です。これには、植物生理学に基づいた明確な理由があります。
鎮圧の有無で、種にどのような違いが出るのかを比較してみましょう。
| 状態 | 土の中の環境 | 種への影響 |
|---|---|---|
| 鎮圧なし (ふわふわ) |
土の粒同士の間に大きな隙間(空気)があり、水分の通り道が遮断されている。 | 種が土に密着していないため水を吸えない。また、隙間から水分が蒸発しやすく、すぐに乾燥して発芽しない。 |
| 鎮圧あり (しっかり) |
土の粒が密着し、地下の水分がストローのように上昇してくる「毛細管現象」が起こる。 | 雨や水やりがなくても、地下からの水分で種が常に湿った状態を保てる。水分の供給が安定し、一斉に発芽する。 |
このように、鎮圧を行うことで、土の中の水分が下から上へと上がってくる毛細管現象(もうさいかんげんしょう)のルートを作ってあげることができます。これにより、種が乾燥から守られ、スムーズに給水できるようになるのです。
注意ポイント
雨上がりや粘土質の土では注意!
鎮圧は重要ですが、土が水分を含んでドロドロの時に強く押さえると、乾いた時にコンクリートのようにカチカチに固まってしまい、逆に芽が出られなくなってしまいます。
鎮圧を行うのは、土が適度に乾いていて、サラサラとしている時がベストです。もし土が湿っている場合は、手のひらで軽くペタペタと叩く程度にしておきましょう。
種苗メーカーの栽培マニュアルでも、発芽を揃えるための重要な工程として「しっかりと土を鎮圧すること」が推奨されています。道具がなければ、靴の裏で踏んでも構いません(種は潰れませんので安心してください)。「種と土を仲良くさせる」イメージで、しっかりと押さえてあげてくださいね。
夏まきで発芽率を上げる芽出し処理
ほうれん草栽培における最難関と言われるのが、まだ残暑が厳しい8月〜9月上旬に行う夏まきです。春や秋と同じように種をまいても、「うんともすんとも言わない(全く芽が出ない)」という失敗が最も多い時期でもあります。
その原因は、ほうれん草特有の熱休眠(サーモドーマンシー)という性質にあります。ほうれん草の発芽適温は15℃〜20℃と涼しい環境を好み、地温が25℃を超えると発芽率が急激に低下、30℃を超えると「今は暑すぎて危険だ」と判断して深い休眠状態に入ってしまうのです。
そこでプロの農家や家庭菜園の上級者が行うのが、冷蔵庫を使って種に「冬が来たよ」と勘違いさせる芽出し処理(催芽:さいが)というテクニックです。これをやるだけで、真夏でも驚くほどきれいに発芽が揃いますよ。
【失敗しない芽出し処理の手順】
- 種を水に浸ける(12〜24時間)
布やガーゼで種を包み、たっぷりの水に一晩浸けます。種の中まで水を吸わせ、硬い殻にある発芽抑制物質を洗い流します。
※ネーキッド種子はこの工程を飛ばしてください(腐ります)。 - 冷蔵庫で休ませる(2〜3日間)
水から上げたら、固く絞った濡れタオルで種を包み、乾燥しないようにビニール袋に入れます。酸欠を防ぐため袋の口は完全に閉じず、少し開けておきましょう。これを冷蔵庫の野菜室(5〜10℃)に入れます。 - 発根を確認したらすぐにまく
毎日様子を確認し、殻が割れて白い根っこ(幼根)が「1mm」ほどチョロッと見えたら、処理完了のサインです。すぐに畑やプランターにまきましょう。
この作業の最大の注意点は、「根を伸ばしすぎないこと」です。根が長く伸びてしまうと、種まきの時にポキッと折れてしまい、その種は死んでしまいます。「白い点が少し見えたらOK」というタイミングを逃さないでください。
注意ポイント
濡れた種をまく裏技
芽出し後の種は濡れていて手にくっつきやすく、スジまき作業がとてもやりづらいです。そんな時は、種に「片栗粉」や「石灰」「乾燥した砂」をまぶしてみてください。
余分な水分が取れて種がパラパラになり、驚くほどスムーズに種まきができますよ。
乾燥を防ぐ種まき後の水やりと被覆

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種まき、覆土、そして鎮圧まで終わったら、最後に優しく、そしてたっぷりと水をあげます。ここから発芽するまでの約5日〜1週間が、ほうれん草栽培の最初の正念場です。この期間の鉄則はたった一つ、土の表面を絶対に乾かさないことです。
種子は一度水を吸って「よし、動くぞ!」と細胞分裂を始めた後に乾燥してしまうと、逆戻りできずに死んでしまいます。特にプランター栽培や、風の強い日の畑は、半日目を離しただけで土の表面がカラカラになってしまうことがあります。
新聞紙を使った「保湿テクニック」
毎日つきっきりで水やりをするのは大変ですよね。そこで私が必ず行っているのが、新聞紙や不織布を使った保湿テクニックです。
やり方は簡単。種まき後の水やりが終わったら、土の上に直接、濡れた新聞紙や不織布、あるいは「もみ殻」をベタがけします。こうすることで、土の水分蒸発を防ぎ、雨で土が叩かれて硬くなるのも防いでくれます。
注意ポイント
芽が出たら、すぐに外すこと!
新聞紙をかけたまま放置するのは厳禁です。毎日めくって確認し、一箇所でも緑色の芽が見えたら、その瞬間に新聞紙を外してください。
外すのが遅れると、発芽した芽が光を求めて一瞬でヒョロヒョロに伸びる「徒長(もやし化)」を起こしてしまいます。一度徒長した苗は元に戻らず、風で倒れて失敗の原因になります。
発芽後の水やりは「メリハリ」が大事
無事に双葉が開いたら、水やりのルールをガラッと変えます。発芽までは「過保護に湿らせる」でしたが、発芽後は「土の表面が乾いたらあげる」に切り替えてください。
ほうれん草は湿気が多すぎると「立枯病(たちがれびょう)」や「根腐れ」を起こしやすくなります。土が乾く時間を作ってあげることで、根っこが水を求めて地中深くまで伸びようとし、結果として丈夫な株に育ちますよ。
徒長を防ぎ丈夫に育てる間引き作業

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無事に芽が出揃って安心したのも束の間、次に待っているのが、多くの人が苦手とする間引き(まびき)です。
「せっかく出た芽を抜くなんてかわいそう…」という気持ち、痛いほど分かります。でも、ここで心を鬼にしてください。ぎゅうぎゅう詰めの満員電車のような状態では、日当たりも風通し悪くなり、光を奪い合ってヒョロヒョロの弱い苗になってしまいます。美味しいほうれん草を作るためには、選抜が必要なんです。
間引きのタイミングと間隔の目安
間引きは一度に終わらせるのではなく、成長に合わせて3回に分けて行うのが基本です。少しずつ間隔を広げていくことで、苗同士が触れ合って育つ「共育ち」の効果を維持しつつ、スペースを確保できます。
| 回数 | タイミング | 作業内容と株間 |
|---|---|---|
| 1回目 | 双葉が開いた頃 | 混み合っている場所や、双葉の形が悪いものを抜きます。 株間:2〜3cm |
| 2回目 | 本葉が1〜2枚 | 生育が遅れているものを抜きます。この頃からお浸しなどで食べられます。 株間:4〜5cm |
| 3回目 | 本葉が3〜4枚 | 最後の仕上げです。一番元気な株を残します。 株間:5〜10cm(最終形) |
「抜く」のではなく「切る」のがプロの技
間引きをする際、残したい株のすぐ隣に生えている芽を無理に引き抜こうとすると、土の中で根っこが絡まり合っていて、残したい株の根までブチッと切れてしまうことがあります。ほうれん草は根の再生力が弱いので、これは大ダメージです。
密集している場所を間引くときは、手で抜くのではなく、ハサミを使って地際(じぎわ)からチョキンと切るのが安全かつ確実な方法です。これなら残す株を傷める心配がありません。
間引きとセットで行う「土寄せ」
間引きが終わったら、残った株の根元に周りの土を寄せてあげる「土寄せ(つちよせ)」を必ず行ってください。間引いた後は株元がぐらつきやすくなっていますが、土を寄せることで苗が安定し、風で倒れるのを防ぐことができます。また、土を動かすことで新鮮な空気が根に届き、成長が促進される効果もありますよ。
ほうれん草の種まきのコツについてのまとめ
ここまでほうれん草の種まきについて詳しく解説してきました。一番大切なのは種をまく前の土作りと、まいた直後の環境づくりです。酸性土壌が苦手なほうれん草のために、まずは苦土石灰などで土の酸度を調整しておくことが成功への第一歩となります。
また季節に合わせた品種選びも忘れてはいけません。春や夏はトウ立ちしにくい晩抽性品種を選び、秋は味の良い東洋種を選ぶなど、時期に応じた使い分けが収穫量を左右します。実際の作業では溝の深さを揃えてしっかりと鎮圧を行い、種と土を密着させることで発芽のタイミングが驚くほど揃いますよ。
発芽するまでは土を乾かさないように新聞紙などで保湿し、芽が出たらすぐに日光に当てて徒長を防ぐことも重要です。最初は難しく感じるかもしれませんが、植物の性質を知って丁寧にお世話をすれば必ず応えてくれます。ぜひ今回の記事を参考にして、家庭菜園で美味しいほうれん草を育ててみてくださいね。あなたの畑が元気な緑でいっぱいになることを願っています。
※本記事の内容は一般的な栽培方法に基づく目安です。気候や土壌条件により生育は異なります。正確な情報は種袋の記載や専門機関の情報を参考にし、薬剤や肥料の使用はご自身の判断で行ってください。